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2005.08.16

ガレの世界

2005「天才工芸家エミール・ガレ」(1846.5.4―1904.9.23)
フランスのロレーヌ地方の古都ナンシーで、ガラス器と陶器を扱う商店を営む家に生まれたガレは、58年の短い生涯に関らず、数多くの印象深い作品を後世に残した。

少年の頃から、ナンシーの植物園(現ドミニク・アレクサンドル・ゴドロン公園)に親しみ、そこから創作の着想を得ていたガレ。
その公園にはソテツや、ウツボカズラ、サボテン、ヤシなどという、当時のヨーロッパでは稀少の植物を植えた近代的な温室棟があり、幼いガレを魅了した。
やがて、彼は彼の原点ともいえるその植物園管理委員会の委員・幹事となり、植物の育成保全に尽くすのだが、彼の作品に見える植物への愛情は、その恵まれた環境によるものだったのだろう。


――ああ、これはナウシカの腐界だわ。

「エミール・ガレ――創造の軌跡展」(岐阜県現代陶芸美術館)の会場に入り、数点見たときに、そう思った。
シダやツクシ、キク、ソテツやアイリス、アジサイ、カノコユリ、それに絡むトンボや蝶や蛙などの昆虫たち。
美しいものに対する感覚が似ている。

ガレの工芸家としての生い立ちには、日本の存在が不可欠だった。
アールヌーヴォーはジャポニズム、特に浮世絵の影響が強いとされるが、ガレの作品には葛飾北斎を初めとする日本の浮世絵と日本の植物の影響が、色濃く見受けられる。
ナンシーのガレの庭には、シーボルトが持ち帰ったばかりの日本原産の植物が多くあったと言う。

トマトやジャガイモがアメリカ大陸から齎されて、ヨーロッパの食を豊かにしたように、日本から持ち込まれた陶器・浮世絵・植物は、現在のヨーロッパ文化の礎の一つとなっている。
世界が繋がったことの功のひとつだ。
(その影には植民地化され搾取された多くの国々の痛みという罪もあるのだけど)

ヴェネチアングラスのように薄く繊細な趣から、ガレの作風は独自の進化を始め、マルケトリーの手法を駆使したぼってりとした存在感のあるガラス作品へと変容する。
時にはグロテスクに見えるような作品もある。
私は晩年の作品には、暗さと重さを感じて好きになれない。
それは1914年(第一次世界大戦)を前にした社会の歪みとか、白血病を病んでいたガレ自身の体調の反映なのかもしれないが・・・

多くの彩り豊かな作品、技術を凝らした重厚な作品、氷のように繊細な作品の中で、私が好きになったのは、とてもシンプルで小さな煙草入れ。
「物言うガラス」シリーズの一つのそれには、ガレの夫人アンリエットの詩が刻まれている。

ある日 一匹の猟犬が
素敵な骨を見つけました
ゆっくりとお祈りする間もなく
犬は獲物に飛び掛りました

私はとても硬いのよ。と
悲嘆にくれた骨が言います
骨は地面が気に入っていたから

静かに! 犬が骨に言います
私は暇で時間はたっぷりあるから大丈夫


地面に刺さった骨に飛びついている犬が可愛い。
死や性という人間のテーマを追求した象徴主義の影響を受けたと言われる1880年代の作品だ。

私はガレの花瓶で花を生けたいとは思わない。
どんな花を生けようと、花とは調和しないような気がする。
ガレの作品は完結している。
そこには花の立ち入る隙は無い。
もし、花と調和する作品が有るとすれば、皮肉なことだが、「悲しみの花瓶」シリーズくらいだろう。

美しいものを見ると、心が過剰反応するので、若い頃はそれを避けていた。
溢れ出す思いで、自分が傷つくから・・・
でも、年を経たことにより、ようやく、美を楽しめる余裕を持てるようになった。
ヴィンテージ物になるのも悪くはない。

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今回の作品展の目録を見ると、ポーラ美術館、北澤美術館が所有しているものが多かった。
これは、バブルの功なのかもしれない。

IT関連の億万長者達には、もっと、美術や芸術のスポンサーになって欲しいな。
芸術を目指すものはそれだけで食べて行くのは難しい場合が多い。
そう言う芸術家達のパトロンになる金持ちがいなければ、商業芸術しか出来なくなってしまう。

ガレは工房を作って、自分の作品を量産しようとしたようだけど、結局、その工房は潰れている。
ガレの手でなければ出来ない何かがあったのだろう。

一人の人間が生み出す芸術には、その人の生い立ちや思想、嗜好によるスパイスがあり、それはどんなに真似ようとしても、真似出来るものではないのだと思う。

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